自社で扱っている素材の効果を調べたところ、「効果が確認された」という研究と、「明確な効果は確認できなかった」という研究が、どちらも見つかった。
こうした場面はめずらしくありません。多くの場合、資料には前者だけを載せるでしょう。効果がなかった研究を載せる理由が見つからないからです。
しかし例えば「どんな年齢層でも効果があるか?」と聞かれると、答えに詰まってしまうものです。
論文によって結果が違うとき、何を信じればよいのか。この問いに方法論として向き合ってきたのが、システマティックレビュー(SR)という考え方です。
この記事では、システマティックレビューが何か、なぜ信頼性が高いと言われ、扱う際の注意点は何か、そして企業の商品やサービスにどう活かせるのかを順に説明します。
システマティックレビューとは?
あらかじめ一定のルールを決めておき、そのルールにしたがって関連する研究をできるだけ漏れなく探し、研究の質も評価したうえで、全体として何が言えるのかを整理する方法です。
医学分野の国際的な組織であるコクラン(Cochrane)は、システマティックレビューを「特定の研究疑問に答えるために、あらかじめ規定した選択基準に合致する経験的エビデンスをすべて集めようと試みる」ものと定義しています。
少し難しいですね・・。押さえておきたいのは3点です。
- 問いがひとつに絞られていること
- ルールが決まっていること
- 結論だけでなく、その確からしさまで示されること
我々がシステマティックレビューを作成する場合、まずテーマを共有し、基準に照らし合わせ、正確性を担保するようにしており、コクランの考えに則っています。
「論文をたくさん読むこと」とは異なる
「つまり、論文をいっぱい読んでいけばいいんだ!」というわけではありません。
論文を100本読んでも探し方と選び方にルールがなければ、システマティックレビューとは呼びません。逆に、対象となる研究が5本しかなくても、手順が守られていればシステマティックレビューと言えます。
普通の文献調査と、何が違うのか
大きな違いは「探す前にルールを決めているか」
普通の文献調査では、調べながら方針が変わります。良さそうな研究が見つかれば深掘りし、思うような結果が出ないテーマは扱いが小さくなる。
都合のいいところだけを解釈してしまう・・よくバイアスなどと言ったりしますね。
システマティックレビューはこのバイアスを構造的に禁じます。検索を始める前に、問い、探す場所、採用と除外の条件を文書等で固定するのです。システマティックレビューを多用する医学分野では、着手前に国際的な登録簿へ計画を公開する慣行もあるぐらいです。
調査方式の比較
| Google検索 | 一般的な文献調査 | システマティックレビュー | |
|---|---|---|---|
| 探し方 | 思いついたキーワードで検索 | 主要なデータベースを必要に応じて | 検索式と対象を事前に確定し、複数を横断 |
| 選び方 | 上位に出たもの、読みやすいもの | 調査者の判断 | 事前に決めた基準で、2名以上が独立して |
| 網羅性 | 低い | 調査者の知識と時間しだい | 網羅を目指す(未公表研究や他言語も含める) |
| 質の評価 | しない | する場合としない場合がある | 必ず行う |
| 透明性・再現性 | 低い | 記述次第 | 検索式や除外理由まで公開する |
| 向いている場面 | 素早く全体像をつかむ | 専門家が仮説を立てる | 意思決定の根拠を示す |
3つの調査方式を例に挙げましたが、もちろんこれらは優劣を示すものではありません。
Google検索はクイックに方向性を示せる一方で頼り切るには不十分。
システマティックレビューは反論も含めて網羅的に抽出して一つの結論を見出すので、かなり頼れる説得材料になります。
実務に置き換えた場合
システマティックレビューは研究分野において使われてきた手法ですが、
eSTEM PLUSではビジネスへの転用も支援しています。
例として、商品の効果を確認するケースを考えてみましょう。
まずは次のように進めてみます。
「◯◯ 効果 論文」と検索し、上位に出てきたもの、内容が分かりやすいものから読んでいく。
そして商品を支持する研究を数本ピックアップして、資料にまとめる。
この進め方は、初期段階では有用です。短時間で論点の見当がつきますし、社内で議論を始めるには十分なことも多いはずです。私も技術者として働いていた際、まずはこの方法であたり付けを取っていました。
ただし、検索キーワード、探すデータベース、採用する論文、そして調査を終えるタイミングが、すべて調査者の判断に委ねられています。
これを防ぐには最初の準備として次の4点を定義します。そのうえで、検索式、検索対象、採用条件、除外条件を設定します。
- 誰を対象とするのか。
- どの技術や成分を見るのか。
- 何と比較するのか。
- どの効果を評価するのか。
そして、結果が肯定的か否定的かにかかわらず文献を集めます。ここが決定的な違いです。最後に、研究条件や質の違いまで比較したうえで、「全体として何が言えるのか」を整理します。
通常の文献調査が劣っているわけではなく、目的が異なるだけです。
一つ一つの仮説検証段階すべてでフルスペックのシステマティックレビューを行うと時間がいくらあっても足りません。
仮説を素早く立てたいとき、社外に示す根拠を固めたり意思決定を行いたいときとでは、必要な成果物が異なるというものです。
システマティックレビューは、どう進むのか
実際の流れは、大きく7つのステップに分かれます。
1. 調べたい問いを決める
「この素材は体にいいか」では漠然としすぎています。誰に、何を、何と比べて、どうなるのかまで絞り込みます。
2. 検索方法を決める
どのデータベースを、どんな検索式で、いつからいつまで探すか。採用と除外の条件も、ここで文書にします。
バイアスがかかるので基本的には検索を始めてから決めてはいけません。
3. 関連研究を探す
ひとつのデータベースでは足りません。コクランは「MEDLINE単独の検索は十分とは見なされない」と明記し、最低でも3つを求めています。進行中の研究が登録される試験登録簿や、報告書・学位論文といった公表されにくい資料まで探し、言語による絞り込みもかけません。
4. 基準に従って研究を選ぶ
集まった文献を、2で決めた基準に照らして選別します。2名以上が独立して行い、判断が割れたら話し合う。除外したものは理由とともに記録します。
5. 研究の質やバイアスを評価する
採用した研究を、すべて同じ重みでは扱いません。研究の「作り方」に起因する系統的な歪みを、領域ごとに評価します。ランダム化比較試験なら、割り付けの方法、介入のずれ、データの欠測、測定のしかた、報告結果の選択という5つで行います。
6. 結果を整理する
各研究から、対象者、条件、測定方法、結果、資金源などを、決めた項目に沿って取り出します。ここも2名以上で行うのが標準です。
7. 全体として何が言えるか判断する
何が分かっていて、何が分かっていないかを示し、結論に「どれくらい確からしいか」の格付けを添えます。
共通しているのは、どのステップも、あとから都合よく変えられないように設計されている点です。これが、次の信頼性の話につながります。
なぜ信頼性が高いと言われるのか
システマティックレビューはかなり信頼性の高い文献として認識されています。
この理由は「権威ある機関が作っているから」ではなく、その手順に理由があります。
都合の良い論文だけを拾いにくい
結果を見てから基準を変えればどんな結論でも作れます。基準を先に固定することで都合の良さを排除します。
見つけやすい研究だけに偏らない
ひとつの情報源で済ませると「見つけやすさ」で研究が選ばれます。複数のデータベースや未公表研究まで探すのは、数を増やすためではなく偏りを減らすためです。
ひとりで判断しない
2名以上が独立して選び、抽出することで、思い込みや見落としが結論に入り込む確率が下がります。
研究の質まで見る
その研究がどう設計され、どう実施されたかを評価します。
掲載誌の格(インパクトファクター)や著者の肩書きでは見ません。
調査方法を全部書く
いつ、どこを、どんな検索式で探し、何をなぜ除外したか。報告のルールはPRISMAという国際的なガイドラインになっており、「完全な報告は、読者が方法の妥当性を評価し、ひいては知見が信頼できるかどうかを判断することを可能にする」と説明されています。
つまり、「正しい結論を保証」するというわけではなく、「読者側が安心できるよう文書上でアピールする。」ということです。
メタアナリシスとの違い
この2つは混同されやすいのですが、別のものです。システマティックレビューを理解するにあたりメタアナリシスの概要をつかんでおく必要があります。
| システマティックレビュー | メタアナリシス | |
|---|---|---|
| 何をするもの | 集めて、選んで、評価して、まとめる手順の全体 | 2つ以上の研究の結果を統計的に結合する |
| 性質 | 調査の方法論 | 統計の手法 |
| 必ずセットか | ― | 必須ではない |
コクランはメタアナリシスを「2つ以上の別々の研究の結果を統計的に結合すること」と定義し、あわせて「システマティックレビューは、メタアナリシスを1つも含む必要はない」とも明記しています。
書いていて思ったのですが、毎度コクランは少しわかりづらい言葉を使いますね・・。
分かりやすく言うと、「システマティックレビューの手順の中にメタアナリシスというプロセスがある」のですが、
メタアナリシスは手順の一つなので、使わなくてもいいよ、ということです。
なぜ、使わないことがあるのか。
メタアナリシスは統計手法でデータを統合するために異なる文献間で平均を取ったりします。しかし、研究の条件がばらばらだと、平均に意味がなります。
例えば同じ人を測った10台の体重計の平均には意味がありますが、体重計と身長計を混ぜて平均しても意味はありません。コクランも、結果のばらつきが大きく、とくに効果の方向が食い違っている場合、平均値を示すことは誤解を招きうるとしています。
ここから実務上の注意として、統合された数字だけを資料に引用するのは意外にリスクが高いということが言えます。
その裏にどんな条件の研究が何本あり、質はどうだったのか。そこを確認せずに数字だけを持ち出すと、根拠として最も脆い部分を示すことになりかねません。
システマティックレビューの質を下げる要因
システマティックレビューの有用性を理解いただけましたか?しかし注意点があります。
質の低い研究を集めても、自動的に質の高い結論にはなりません。
感覚としては分かっていただけるのではと思います。小学校の勉強だけをどれだけ高度にやっても大学受験の学力はつくはずがありません。当然、大学受験には高校の知識を組み合わせて挑む必要があります。
エビデンスの確実性を評価する国際的な枠組みであるGRADEでは、ランダム化比較試験の集まりは「高い確実性」から出発しますが、そこから減点していきます。減点が重なれば、システマティックレビューの結論であっても、最も低い評価になります。
確実性を下げる要因は5つです。研究の作り方に歪みがないか。研究どうしで結論が食い違っていないか。研究の対象や条件が、知りたい対象と同じか。対象人数は十分か。都合の悪い結果が表に出ていない可能性はないか。結論に「何でできていて、どこが弱いか」というラベルを付ける仕組みだと考えると分かりやすいと思います。
レビュー自体の質にも、ばらつきがあります。 生物医学分野のシステマティックレビュー300件を無作為に抽出した調査では、公表されていないデータの情報源まで探していたのは7%、計画を事前に登録していたのは4%でした。別の調査では、100件のうち検索の手順を完全に再現できたのは1件だけです。
こうした背景から、2016年には、エビデンスの信頼性を三角形で表し頂点にシステマティックレビューを置く従来の図について、見直しが提案されました。研究デザインだけではバイアスの大きさを測れないと分かってきたためです。代わりに提案されたのが、システマティックレビューを他の研究を見るための道具として位置づけ直すことでした。
「論文が1本ある」と「研究全体がそう言える」は異なる
この記事で最もお伝えしたいのが、この点です。
都合の悪い結果は、そもそも表に出にくいです。 ある薬剤について、規制当局に登録されていた74件の臨床試験を調べた研究があります。当局の判定で陽性と評価されたのは51%でした。ところが公表された論文だけを見ると、94%が陽性に見えたのです。陰性と判定された試験の多くは公表されず、一部は前向きな結果として公表されていました。効果の大きさも、全体で32%大きく見えていました。
誰かが嘘をついたわけではありません。ひとつひとつの論文は、それぞれ正しく書かれています。にもかかわらず、公表されたものだけを集めると、全体像が歪む。これが出版バイアスと呼ばれる現象です。
もう一度やっても、同じ結果が出るとは限りません。 2015年、心理学の100件の研究について、同じ方法で再現実験を行った大規模なプロジェクトがありました。元の研究では97%が統計的に有意でしたが、再現実験で有意だったのは36%。効果の大きさも、およそ半分でした。
そのうえ、論文の数は増え続けています。システマティックレビューだけでも、2019年には1日あたり約80件が公表されている計算です。ある主張を支持する研究を1本見つけることは、多くのテーマで可能です。
だからこそ、質問の立て方を変える必要があります。「この主張を支持する論文はありますか」ではなく、「この主張について、研究全体はどちらを向いていて、どれくらい確からしいですか」。
企業にとって、この違いは実務に直結します。1本の論文を根拠にした訴求は、反対の結果を示す研究を持ち出された瞬間に崩れます。
あとになって、「弊社の商品はこの論文とはこういう箇所が異なっているので」などと弁明しても、嘘をついたという扱いになります。
研究全体を把握したうえで「ここまでは言える、ここからは言えない」と整理してあれば、想定外の指摘を受けにくくなります。
ビジネスへの転用
ここまでは研究サイドのお話でした。ここからは、企業活動への応用です。
商品・サービスのエビデンス整理
まず「言いたいこと」を全部書き出し、それぞれを検証できる問い(誰に、何を、何と比べて、どうなる)に分解してから調べます。調べながら主張を作るのではなく、主張を決めてから、それが立つかどうかを調べる。
この順番の重要性は、ここまで読んでいただいた聡明な皆様ならばわかっていただけるはずです。
経験上、結果はたいてい3つに分かれます。根拠が強い部分、まだ判断できない部分、追加の検証が必要な部分です。この3分割ができるだけで、社内の議論は整理されます。「何となく不安」が「どこが不安か」に変わるからです。そして「どこが不安か」が分かれば、それはそのまま、次に調べるべきことのリストになります。
営業・提案資料
主張ごとに「強く言える」「条件付きで言える」「言えない」を段階分けし、根拠と限界を併記しておく。営業担当者がどこまで言ってよいかを自分で判断でき、根拠を聞かれても即答できます。過剰な表現によるリスクも事前に切り分けられます。
ここで効くのが、先ほどのGRADEの観点です。とくにその研究の対象者や使用条件は、当社の顧客や当社の製品と同じかという問いは強力です。設備の導入を検討しているなら、その性能が検証された稼働条件や処理量は、自社の運用と同じかどうか。この確認だけで、資料の適用範囲がはっきりします。
商品開発・マーケティング
既存研究の分布を見ると、どこが調べ尽くされ、どこが空白かがよく分かります。
学術の世界には「エビデンス・ギャップマップ」という手法があり、「技術や施策」と「狙う効果」のマトリクスに研究をプロットして空白を可視化します。Campbell Collaborationは、これを研究の優先順位づけの道具と位置づけています。
企業にとって空白は、リスクであると同時に投資機会です。なぜならば競合が誰も検証していない領域が見えるからです。
たとえば、省エネ性能については研究が積み上がっているのに、特定の運用条件下での耐久性はほとんど検証されていない、といったことが見えてきます。
ちなみに皆様の社内にも出版バイアスと同じ構造が必ずあります。共有されるのは成功した施策で、打ち切ったテストや期待外れだった試作は記録に残りにくい。すると社内に蓄積される情報は楽観な方へ傾きます。
失敗の記録を残すことは将来の重要な意思決定につながる可能性があるため、失敗した事でも挑戦に対し称賛する文化醸成や仕組みが必要であると考えます。
新規事業・技術評価
「そこまでやる時間はない」という声はもっともです。学術的なシステマティックレビューは、数ヶ月から年単位の作業になります。
ただ、学術の側もこの問題に向き合っています。コクランは、時間制約のある意思決定のために「ラピッドレビュー」の方法論ガイダンスを公表しています。大事なのは、簡略化してよいということではなく、簡略化のしかたに作法があるということです。何を省いたのかを明示すれば、簡略版でも判断材料として機能します。(隠すと、機能しなくなります。)実務では、期限と精度のどちらを優先するのかを最初に決めておくと、あとで認識がずれません。
なお、経営の意思決定において学術研究は情報源のひとつにすぎません。証拠にもとづく経営の枠組みでは、学術研究に加えて、社内のデータ、実務家の経験と判断、関係者の価値観という4つを突き合わせることが求められます。システマティックレビューが担うのは、このうち学術研究のみです。
eSTEM PLUSの「ビジネス版システマティックレビュー」
eSTEM PLUSは「理系の感性、ひとつまみ。」をコンセプトに、科学・技術・数理的な視点を企業活動へ取り入れる支援を行っています。
私たちが行っているのは、システマティックレビューの体系的な調査の考え方をベースに、企業が実際に使える形へ翻訳することです。
- 商品やサービスに関する研究の、体系的な調査
- 集まった研究の整理と、根拠の強弱の整理
- 営業やマーケティングで使える論点の抽出
- 慎重に扱うべき表現の整理
- 追加で必要な実験・調査の提案
これを「ビジネス版システマティックレビュー」と呼んでいます。
進め方の例
イメージしやすいように、架空の例で説明します。
ある企業から「自社で扱っている水処理技術について、営業資料でどこまで効果を訴求できるのか整理したい」という相談を受けたとします。
最初に行うのは、調査ではなく定義です。どの用途を対象にするのか。何に対する効果を確認したいのか。どの条件の研究まで含めるのか。ここを依頼元と一緒に決めてから、検索に入ります。
そのうえで関連研究を体系的に探し、集まった研究を整理します。たとえば、次のような区分になります。
- 比較的根拠が揃っている領域
- 研究はあるが、条件が限定されている領域
- 研究間で結果が一貫していない領域
- 現時点では十分な根拠を確認できない領域
ここまでは、まだ調査の話です。私たちが重視しているのは、この先です。
この区分を、営業資料でどこまで書けるか、商品企画でどこを強みとして設計するか、マーケティングでどの層に訴求するか、追加実験をやるならどこから手をつけるか、という判断の形に翻訳していきます。
論文の一覧をお渡しするのではなく、研究全体を踏まえて、「何が言え」、「何が言えず」、「次に何をすべきかを整理する」。
これこそが「システマティックレビュー」という調査方法を念頭に掲げた仕事の責任だと考えています。
ゴールは意思決定ができること
調査が終わったとき、手元に残るのは文献の一覧ではなく、次のような整理です。
- 現時点で、比較的強く言えること
- 条件付きなら言えること
- 現時点では言いにくいこと
- 研究間で結果が割れている部分
- 追加で検証すべき部分
- どのような研究や実験を行えば、次の判断につながるのか
情報を集めること自体が目的ではありません。目的は、意思決定できる状態をつくることです。「何が言えるのか」「何はまだ言えないのか」「次に何を調べるべきか」が分かれば、その先の判断は社内で進められます。
なお、この整理は一度きりで終わるものでもありません。新しい研究が出れば、結論が変わることもあります。検索式と基準を残しておけば、次の更新は初回よりずっと軽い作業になります。
ただし、あくまでも正式な学術的システマティックレビューと同一のものではありません。学術版は数ヶ月から年単位をかけ、複数のデータベースと未公表研究まで網羅し、複数名による独立した作業を前提とします。
ビジネスの環境は目まぐるしく動きます。
競合も早く動くので意思決定も迅速化しなければなりません。
私たちが行うのは、システマティックレビューの考え方を最大限取り入れながら、事業判断に使いやすい形へ設計し直したものです。早さと精密さの両立を実現しております。
まとめ
冒頭の問いに戻ります。「効果がある」という研究と「効果は確認できなかった」という研究、どちらを信じればよいのか。
答えは、どちらでもありません。研究全体を見て、何がどこまで言えるのかを整理すること。それが、システマティックレビューという方法論が示している答えです。
- 本質は量ではなく、探す前にルールを決めること
- メタアナリシスは必須ではなく、まとめないという判断も方法論のうち
- システマティックレビューであっても万能ではなく、元の研究の質に左右される
- 「論文が1本ある」ことと「研究全体がそう言える」ことは違う
この考え方は、商品・サービス開発から営業資料、研究テーマの選定まで応用できます。
自社商品の根拠を整理したい。関連研究をまとめて調べたい。営業資料の科学的根拠を強化したい。新規事業の技術的な妥当性を確認したい。
eSTEM PLUSでは、こうしたご相談を承っています。まずは「何が言えて、何が言えないのか」を切り分けるところからお手伝いします。お気軽にお問い合わせください。
5. 参考情報・参考文献
本文中の主要な記述は、以下の情報源にもとづいています。引用箇所は英語原文からの訳です。
方法論の定義・手順について
- Cochrane Handbook for Systematic Reviews of Interventions, Chapter 1: Starting a review システマティックレビューの定義、「その場しのぎの検索と研究選択」の問題、研究疑問の設定の重要性 https://www.cochrane.org/authors/handbooks-and-manuals/handbook/current/chapter-01
- Cochrane Handbook, Chapter 4: Searching for and selecting studies 「MEDLINE単独の検索は十分とは見なされない」、複数データベース・試験登録簿・灰色文献の検索、言語制限をかけないこと https://www.cochrane.org/authors/handbooks-and-manuals/handbook/current/chapter-04
- Cochrane Handbook, Chapter 8: Assessing risk of bias in a randomized trial バイアス評価の5つの領域 https://www.cochrane.org/authors/handbooks-and-manuals/handbook/current/chapter-08
- Cochrane Handbook, Chapter 10: Analysing data and undertaking meta-analyses メタアナリシスの定義、「システマティックレビューはメタアナリシスを1つも含む必要はない」、条件がばらつく場合に平均値が誤解を招くこと https://www.cochrane.org/authors/handbooks-and-manuals/handbook/current/chapter-10
- Cochrane Handbook, Chapter 14: Grading the certainty of the evidence GRADEの4段階、確実性を下げる5つの要因、ランダム化比較試験は高い確実性から出発すること https://www.cochrane.org/authors/handbooks-and-manuals/handbook/current/chapter-14
- Cochrane Library — About Cochrane Reviews 事前に定めた計画にしたがうという原則、プロトコルの公開 https://www.cochranelibrary.com/about/about-cochrane-reviews
- Page MJ, McKenzie JE, Bossuyt PM, et al. The PRISMA 2020 statement: an updated guideline for reporting systematic reviews. BMJ. 2021;372:n71. 報告ガイドラインとしてのPRISMA、完全な報告が知見の信頼性の判断を可能にすること doi:10.1136/bmj.n71
- GRADE Working Group エビデンスの確実性を評価する枠組みの概要 https://www.gradeworkinggroup.org/
限界・注意点について
- Murad MH, Asi N, Alsawas M, Alahdab F. New evidence pyramid. BMJ Evidence-Based Medicine. 2016;21(4):125-127. エビデンスピラミッドの見直しの提案、システマティックレビューを「レンズ」として位置づける考え方 doi:10.1136/ebmed-2016-110401
- Page MJ, Shamseer L, Altman DG, et al. Epidemiology and Reporting Characteristics of Systematic Reviews of Biomedical Research: A Cross-Sectional Study. PLoS Medicine. 2016;13(5):e1002028. 未公表データの検索7%、プロトコル事前登録4%、バイアス評価70%のうち解析への反映16% doi:10.1371/journal.pmed.1002028
- Rethlefsen ML, Brigham TJ, Price C, et al. Systematic review search strategies are poorly reported and not reproducible: a cross-sectional metaresearch study. Journal of Clinical Epidemiology. 2024;166:111229. 100件のうち検索を完全に再現できたのは1件のみ doi:10.1016/j.jclinepi.2023.111229
- Hoffmann F, Allers K, Rombey T, et al. Nearly 80 systematic reviews were published each day: Observational study on trends in epidemiology and reporting over the years 2000-2019. Journal of Clinical Epidemiology. 2021;138. 2019年時点で1日あたり約80件という公表数の推計 doi:10.1016/j.jclinepi.2021.05.022
論文1本では判断できない理由について
- Turner EH, Matthews AM, Linardatos E, Tell RA, Rosenthal R. Selective Publication of Antidepressant Trials and Its Influence on Apparent Efficacy. New England Journal of Medicine. 2008;358(3):252-260. 規制当局登録74試験のうち31%が未公表、当局判定では51%が陽性だが公表論文では94%が陽性に見えた、効果量は全体で32%過大 doi:10.1056/NEJMsa065779
- Open Science Collaboration. Estimating the reproducibility of psychological science. Science. 2015;349(6251):aac4716. 100件の再現実験、元の研究97%が有意に対し再現実験では36%、効果量はおよそ半分 doi:10.1126/science.aac4716
ビジネスへの応用について
- Campbell Collaboration — Evidence and Gap Maps エビデンス・ギャップマップの定義と、研究の優先順位づけへの活用 https://www.campbellcollaboration.org/evidence-gap-maps.html
- Garritty C, Gartlehner G, Nussbaumer-Streit B, et al. Cochrane Rapid Reviews Methods Group offers evidence-informed guidance to conduct rapid reviews. Journal of Clinical Epidemiology. 2021;130:13-22. 時間制約下でのラピッドレビューに関する方法論ガイダンス doi:10.1016/j.jclinepi.2020.10.007
- Barends E, Rousseau DM, Briner RB. Evidence-Based Management: The Basic Principles. Center for Evidence-Based Management, 2014. 意思決定に用いる4つの情報源(学術研究、組織のデータ、実務家の経験と判断、関係者の価値観) https://cebma.org/assets/Uploads/Evidence-Based-Practice-The-Basic-Principles.pdf
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