商品の効果や性能を広告で具体的に伝えたいとき、社内に試験データがあっても、そのデータで「〇〇%改善」「においを抑える」とまで書いてよいのか判断に迷うことがあります。
営業や広報の担当者は表現を強めたく、開発や品質保証の担当者はデータの範囲を気にするため、誰が最終的に確認するのかが曖昧なまま表現が決まってしまう・・・というのはどの企業でも見られるセクショナリズムです。
景品表示法には、効果や性能の表示について、消費者庁が事業者に「表示の裏付けとなる資料を出してください」と求める仕組みがあります。不実証広告規制と呼ばれるもので、提出期限が短いため、求められてから資料を探し始めても間に合わないことがほとんどです。
この記事では、消費者庁の指針が示す「合理的な根拠」の要件を確認したうえで、手元の試験データや文献で何をどこまで表示できるかを、社内で確認する方法を説明します。違法かどうかの法律判断ではなく、資料が科学的に表示を裏付けているかという観点からの整理です。
個別の表示が法律に違反するかどうかの最終的な判断は行政が行い、法的な助言は弁護士の領域になる点はご了承ください。
不実証広告規制は、事業者に何を求めているのか
景品表示法第7条第2項は、効果や性能の表示が優良誤認表示(商品やサービスの内容を実際より著しく優れていると示す表示)に当たるかを判断するために必要な場合、消費者庁が事業者に対し、期間を定めて、表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができると定めています。
通常、行政が表示を不当と判断するには、表示どおりの効果がないことを行政側が調べて示す必要があります。
不実証広告規制ではこの順番が逆になり、事業者が期限内に資料を出さない場合や、出した資料が合理的な根拠と認められない場合、措置命令との関係ではその表示は優良誤認表示とみなされます。課徴金納付命令についても第8条第3項に同じ仕組みがあり、こちらは「推定される」という扱いです。推定の場合は、期限を過ぎたあとでも新しい資料を出して反論する余地が残ります。

効果が本当にある商品でも、それを示す資料が要件を満たしていなければ、規制の対象になり得ます。(実際に支払っていても領収書がなければ経費として認められにくいのと似ています。)
資料を求められやすいのは、効果や性能を具体的に打ち出した表示です。指針には、取り付けるだけで燃料を5〜25%カットできるとした自動車用品や、食事制限なしで減量できるとうたうお茶などの例が並んでいます。「気分爽快」「健康になる」のような主観的・抽象的な表示だけなら通常は対象になりませんが、そこに具体的で大きな効果が加わると(暗示される場合も含む)、対象になり得るとされています。
ただし、指針の例はあくまで過去の事例をまとめたもので、実際に資料を求められるかどうかは個別の事案ごとに判断されます。「指針の例に似ていないから大丈夫」とは言えず、表現を具体的にするほど必要な資料も具体的になる、と考えておくのが安全です。
資料の提出期限は、原則として15日
指針では、資料の提出期限を、消費者庁長官が文書で提出を求めた日から原則として15日後としています。期限の延長は正当な事由がある場合に限られ、新たな試験・調査や追加の試験・調査が必要だという理由は、正当な事由とは認められないと明記されています。
15日では、既にある報告書を探して整理することはできても、試験を設計して実施し、報告書にまとめるところまではまず間に合いません。そのため、合理的な根拠は表示を出す時点で手元に揃えておく必要があります。
指針も、効果や性能の著しい優良性を示す表示をする事業者は、裏付けとなる合理的な根拠を「あらかじめ」持っているべきだという考え方を示しています。広告の制作スケジュールが先に決まり、根拠資料は後から集めるという進め方になっていないか、一度確認しておく価値があります。
販売店や代理店の立場で表示を作る場合については、指針に補足があります。販売業者が自分で実証試験をすることが常に求められるわけではなく、製造業者などが行った試験のデータがあるか、その方法や結果が客観的かを販売業者自身が確認したことを示す書面を、根拠として提出することもできるとされています。メーカーから受け取った数値をそのまま販促物に載せるのではなく、確認した記録を残しておくことが販売側の備えになります。
合理的な根拠と認められる2つの要件
指針は、提出資料が合理的な根拠と認められるための要件として、次の2つを挙げています。
- 提出資料が客観的に実証された内容のものであること
- 表示された効果・性能と、提出資料によって実証された内容が適切に対応していること
要件は2つとも満たす必要があります。質の高い試験報告書を持っていても、広告の表現が報告書の範囲からはみ出していれば②を満たしません。反対に、表現と資料の内容が合っていても、試験のやり方に問題があれば①を満たしません。
資料を見せていただく場面では、①より②でつまずく例のほうが多いと感じます。資料はきちんとしているのに、広告で言っている効果が、資料で確認された範囲を超えているという形です。以下、①と②を順に見ていきます。
要件①:資料そのものが客観的に実証されているか
指針は、客観的に実証された内容として、「試験・調査によって得られた結果」と「専門家・専門家団体・専門機関の見解、または学術文献」の2つを挙げています。どちらを根拠にするかで、確認するポイントが変わります。
試験・調査は、分野で認められた方法で行われているか
試験や調査の結果を根拠にする場合、その方法は、表示した効果・性能に関係する学術界や産業界で一般的に認められた方法か、関連分野の専門家の多くが認める方法である必要があります。
指針では、日用雑貨品の抗菌効果をJISに規定された方法で試験した例などが挙げられています。
そうした方法が存在しない分野では、社会通念上・経験則上妥当と認められる方法で行う必要があり、その判断には関連分野の専門家が妥当と見るかどうかも考慮されます。
自社で独自に考えた測定方法を使う場合は、なぜその方法で測れば表示した効果を確認できるのかを、分野の外の人にも説明できるようにしておく必要があります。
ちなみに、試験を自社で行ったこと自体は問題になりません。指針は、第三者機関の試験は一般に客観的と考えられるとしつつ、方法が適切であれば事業者自身の試験も根拠として提出できるとしています。外部に委託したかどうかより、測り方がその分野で通用するかのほうが確認内容の中心になります。
報告書として、第三者が読める形で残っているか
提出するのは結果の数値だけではなく、試験の内容が分かる資料です。
社内に結果の数字だけが残っていて、どんな条件で測ったのかが分からないという状態は、意外とよく見かけます。
報告書には、少なくとも試験を実施した機関や部署、実施時期、試験方法とその出典、試験の対象(検体・被験者・装置など)、サンプル数、測定条件、統計処理の方法、結果、生データの保管場所が書かれているかを確認しておくと安心です。外部機関に委託した場合は、報告書の原本が社内に保管されているかも確認対象になります。
このうち抜けやすいのは、サンプル数と統計処理です。1回だけ測った値をそのまま代表値として使っている資料は、ばらつきの大きい測定ほど、方法の妥当性そのものを問われやすくなります。
他には、成分分析を手動で行ったか自動分析計を使用したか、またその測定原理は何か、などです。いわゆるマテメソですね。
専門家の見解や学術文献を使う場合
専門家の見解や学術文献を根拠にする場合、その内容が当該の専門分野で一般的に認められている必要があります。指針は、特定の専門家による特異な見解や、新しい分野で専門家がまだいない場合などは客観的に実証されたものとは認められず、試験・調査で実証する必要があるとしています。
自社製品について専門家に評価を依頼すること自体は、指針でも想定されています。ただしその場合も、評価の内容が分野で一般的に認められていることが条件です。「〇〇大学の先生が効果を認めている」という形だけでは足りず、その評価が分野で通用する根拠に基づいているかを確認する必要があります。
文献が1本あれば「分野で一般的に認められている」と言えるのかについては、後の節で改めて扱います。
体験談やアンケートを根拠にする場合
消費者の体験談やモニターの意見を集めた調査を根拠にする場合、指針は、無作為抽出法で相当数のサンプルを選び、作為が生じないように配慮するなど、統計的な客観性が十分に確保されている必要があるとしています。
指針には、認められない例として、自社の従業員やその家族など利害関係のある人の体験談を集めた調査、自分から体験談を送ってきた利用者の声だけを集めた調査、広い地域で売る商品について一部地域の少数のモニターだけで行った調査が挙げられています。既存の購入者だけに配ったアンケートや、謝礼付きのモニター調査も、同じ観点で標本の選び方を確認しておく必要があります。回答数が多いことは、回答者に偏りがないことの証明にはなりません。
私が良く使う実例があるので、紹介します。
実例:エクスコムグローバル株式会社の「イモトのWiFi」
海外Wi-Fiレンタルサービス「イモトのWiFi」では、過去に「お客様満足度 No.1」「海外旅行者が選ぶ No.1」「顧客対応満足度 No.1」といった表示が行われていました。
これだけを見ると、イモトのWiFiや競合サービスを実際に利用した人にアンケートを行い、その結果、満足度などが最も高かったように見えます。
しかし、消費者庁が確認した実際の調査内容は異なっていました。
調査では、回答者がイモトのWiFiや比較対象となるサービスを実際に利用した経験があるかを確認していませんでした。さらに、市場にあるサービスを網羅的に比較したわけではなく、特定の9事業者を任意に選び、その各社のウェブサイトを見た印象を回答してもらう方法が採られていました。
つまり、実際に調べていたのは、「サービスを利用した人の満足度」というよりも、「ウェブサイトを見たときの印象」に近いものだったわけです。
それにもかかわらず、広告では「お客様満足度 No.1」「顧客対応満足度 No.1」などと表示していました。消費者庁は、この調査について客観的な調査に基づくものではなく、調査結果についても正確かつ適正に引用したものではないと判断しています。
この事例が分かりやすいのは、アンケートを実施して数字を持っていれば、それだけで表示の根拠になるわけではないことを示している点です。
たとえば、「満足度」を表示するのであれば、誰の満足度を測っているのかが重要です。サービスを使ったことのない人にウェブサイトを見せ、その印象を聞いた結果を「利用者の満足度」として扱うことはできません。
比較対象の選び方も同様です。自社に都合のよい事業者だけを比較対象に選べば、調査設計によって「No.1」を作れてしまいます。そのため、回答者の人数だけではなく、対象者の選び方、比較対象の選び方、質問内容、そして調査結果と実際の広告表現が対応しているかまで確認する必要があります。
アンケート調査で重要なのは、「何人に聞いたか」だけではなく、誰に、何を、どのような条件で聞いた結果なのか。そして、その調査で実際に分かったこと以上の表現を広告でしていないかまで含めて設計する必要があります。
要件②:資料で確認できた範囲と、表示が一致しているか
指針は、資料自体が客観的に実証された内容であっても、表示された効果・性能と適切に対応していなければ合理的な根拠とは認められないとして、4つの例を示しています。この記事では、それらの例と、ほかによく見られるずれを合わせて、次の4種類に分けて考えます。
| ずれの種類 | 内容 | 指針に挙げられている例 |
|---|---|---|
| 対象のずれ | 試験した対象と、表示が想定する対象が違う | アクリルケース内で害虫が電磁波を一時的に避けた結果を根拠に、家屋内での害虫駆除効果を表示する |
| 条件のずれ | 試験の条件と、実際の使用条件が違う | 特定の高性能エンジンオイルで燃費が10%向上した結果を根拠に、あらゆるエンジンオイルで10%向上すると表示する |
| 指標のずれ | 測った指標と、表示している効果が別のもの | 指針に直接の例はなし |
| 程度のずれ | 確認された効果の大きさと、表示が示す大きさが違う | 紫外線を50%遮断するとした文献を根拠に「99%カット」と表示する/適度な運動を前提に脂肪燃焼の促進が期待できるとした見解を根拠に「食べるだけで1か月に5kg痩せる」と表示する(条件のずれも含む) |
対象のずれ
規模の違いとしても現れます。試験管内での結果とヒトでの効果、実験室規模の装置と実際の設備では、小さな系で確認できたことが大きな系でも同じように成り立つとは限りません。排水処理のような規模の大きい設備では、ラボスケールで良い処理性能が出ても、実際の設備で同じ数字にならないことは珍しくありません。広告に数値を載せるなら、実機に近い条件で得たデータが必要になります。
条件のずれ
実際の使われ方との差として現れます。食品であれば、有効成分の配合量が論文の条件を満たしていても、論文が想定している摂取の頻度や期間と、実際の飲まれ方が違うことがあります。1日3回・12週間の摂取で確認された変化を、1本飲めば得られる効果のように書けば、資料と表示は対応しなくなります。連続運転を前提にしたデータを、断続的に使う場面での性能として表示する場合も同じです。
指標のずれ
4つの中で最も気づきにくいものです。菌数の減少を測った資料を根拠に「においが消える」と書く、表面の水濡れ性を測った資料を根拠に「汚れが落ちやすくなる」と書く、といったケースです。測ったものと言いたいことの間にもう一段の推論が入っているなら、その推論にも根拠が必要です。この例であれば、菌数が減ればにおいが減るという関係を示す資料か、においそのものを測った試験があるかを確認します。
程度のずれ
数字や形容詞の選び方で起きます。統計的に有意な差があっても、変化の幅が小さい場合に「劇的に」「大幅に」と書けば、確認された内容を超えてしまいます。統計的に差があることと、使う人にとって意味のある大きさの差があることは、別々に確認する必要があります。
注記で条件を書き添えれば足りるか
広告の本文では強い効果を打ち出し、小さな注記で「〇〇の条件での試験結果です」と書き添える形をよく見かけます。
先ほど触れたように、指針は表示された効果を、表示全体から一般消費者が受け取る内容で判断するとしています。見出しや大きな数値から読み手が受け取る効果が資料の範囲を超えていれば、注記を添えても資料と表示の対応が取れるとは限りません。条件を伝えたいなら、本文の表現そのものを資料の範囲に合わせたうえで、読み手が本文と一緒に目にする位置に書くほうが確実です。
「他社も同じ表現を使っている」「論文がある」は根拠になるか
社内で表示を検討していると、「競合も同じ表現を使っている」という意見が出ることがあります。稟議を通す材料としてはよく使われるのだろうと思いますが、合理的な根拠にはなりません。他社が資料を持っているかは分かりませんし、持っていたとしても、それは他社の商品についての資料です。要件②で問われるのは、自社の表示と自社の資料の対応です。
「論文があるから大丈夫」という意見も、そのままでは通りません。論文は自社製品のために書かれたものではないので、対象、条件、指標、効果の大きさのどれかが、自社の表示とずれていることが多くあります。上の4種類のずれは、論文を根拠にしたときにこそ起きやすいと考えてください。
表示を出す前に、社内で確認する順番
要件①と②を、社内で確認しやすい順番に並べ直すと次のようになります。広告やパンフレットの表現を確定する前に、一度通しておくことをおすすめします。
| 確認すること | 見落としやすい点 | |
|---|---|---|
| 1 | 表示したい効果を1文で書き出す | 「なんとなく良さそう」のまま進むと、以降の確認ができない |
| 2 | その1文を裏付ける資料を特定する | 複数の資料をつながないと説明できないなら、つなぎ目に推論が入っている |
| 3 | 試験方法は、分野で一般的に認められた方法か | 独自の測定方法なら、分野で通用する理由を説明できるか |
| 4 | 試験の対象は、表示が想定する対象と同じか | 試験管内・動物・ヒト、ラボ規模・実機規模の違い |
| 5 | 試験の条件は、実際の使われ方と合っているか | 量、頻度、期間、運転条件の違い |
| 6 | 測った指標は、表示している効果そのものか | 別の指標から一段推論していないか |
| 7 | 効果の大きさは、表示が示す大きさに届いているか | 「有意差がある」と「大きな差がある」は別 |
| 8 | アンケートなら標本の選び方、文献なら分野での位置づけを説明できるか | 回答数の多さは偏りのなさを示さない/なぜその文献を選んだのか |
| 9 | 第三者に15日以内で説明できる形で保管されているか | 資料の保管場所と担当者がすぐ分かるか |
2で複数の資料が必要になったら、特に注意してください。資料Aで成分の作用を示し、資料Bで製品への配合量を示し、両方を合わせて製品の効果を主張する形では、「この配合量の、この製品で、その作用が出る」という部分がどの資料でも確認されていないことが多くあります。推論を挟むこと自体が悪いわけではないので、その推論を支える資料があるかを確認します。
意外と抜けやすいのが9です。資料が担当者の頭の中や個人のフォルダにしかない状態では、提出を求められたときに探し出せず、資料がないのと近い扱いになりかねません。表示を決めた担当者が異動した、委託先の報告書が電子データでしか残っていない、当時の試験条件を知る人がいない、といった抜けは時間が経つほど増えていきます。
表示の一覧と、それぞれを裏付ける資料の保管場所を紐づけた台帳を作っておくと、この確認はかなり楽になります。表示を使い続けている間は、その裏付けもすぐに取り出せる状態にしておく必要があるので、商品数や媒体の多い企業ほど効果が大きいと思います。
なお、このチェックは景品表示法の不実証広告規制を念頭に置いたものです。健康食品、化粧品、医療機器などでは、医薬品医療機器等法、健康増進法、食品表示法などの規制も重なるため、表示を確定する際は該当する法令もあわせて確認してください。
文献が1本あれば「分野で認められている」と言えるか
指針が専門家の見解や学術文献に「当該専門分野において一般的に認められていること」を求めている以上、自社の主張に合う文献が1本あることと、分野でそう認められていることは同じではありません。
研究の世界には、効果が出た研究ほど論文になりやすく、効果が出なかった研究は公表されにくいという偏りがあります。出版バイアスと呼ばれる現象で、検索して最初に見つかった1本が、その分野全体の結論を代表しているとは限りません。
分野としての合意を示したい場合は、文献の探し方そのものに手順が必要です。検索する範囲とキーワード、採用と除外の基準を先に決めてから文献を集め、結果が自社に有利かどうかにかかわらず整理します。この手順を踏んだものがシステマティックレビューです。

広告の根拠を示すたびに学術論文と同じ厳密さが必要というわけではありません。ただ、「なぜこの文献を選んだのか」「反対の結果を示す研究はなかったのか」に答えられる状態にしておくと、要件①の説明はずっとしやすくなります。答えられないまま文献を1本添えても、都合の良いものを選んだのではないかという疑問は残ります。
試験を発注する前に、文献で分かっていることを確認する
広告で言いたい表現を先に決め、それに合う資料を後から探すと、資料と表現の間にずれが生まれやすくなります。ずれを埋めようと説明を足すうちに推論が増え、表示と資料の対応がかえって分かりにくくなることもあります。
無理のない順番は、既存の文献で何が分かっていて何が分かっていないかを確認し、分かっていない部分を埋めるように試験を設計し、確認できた範囲で表現を決める、という流れです。
この順番は費用の面でも意味があります。ヒトを対象にした試験や実機での実証には、相応の費用と期間がかかります。文献の段階で「この効果は既に確認されている」「ただしこの条件ではまだ確認されていない」と分かっていれば、試験で確かめるべき点を絞り込めます。文献調査は試験を省くためというより、試験の無駄を減らすために行うものだと私は考えています。
分かっていないことを先に把握しておくと、広告の表現だけでなく、商品開発で何を優先して検証するかを決める際にも役立ちます。
2024年10月の法改正で変わったこと
令和5年に改正された景品表示法が、2024年(令和6年)10月1日に施行されました。表示の根拠との関係で押さえておきたい変更点を説明します。
改正では、不当表示の疑いがある事業者が是正措置の計画を作って申請し、認定を受けた場合に、措置命令や課徴金納付命令を受けない「確約手続」が設けられました。ただし、消費者庁の運用基準では、過去10年以内に措置命令や課徴金納付命令を受けている場合や、表示に根拠がないと認識しながらあえて表示しているような悪質・重大な事案は対象外とされています。
あわせて、故意に優良誤認表示・有利誤認表示を行った場合の罰則(100万円以下の罰金)が新設され、過去10年以内に課徴金納付命令を受けた事業者が再び課徴金の対象となる行為をした場合に、課徴金を1.5倍に加算する規定も設けられました。
根拠資料との関係でもう一つ押さえておきたいのが、適格消費者団体による開示要請です。適格消費者団体は、事業者の表示が優良誤認表示に当たると疑うに足りる相当な理由があるとき、その表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の開示を要請できるようになり、事業者はこれに応じる努力義務を負います(営業秘密が含まれるなど正当な理由がある場合を除く)。根拠資料を求めてくる可能性がある相手は、消費者庁だけではなくなりました。
これらを合わせて見ると、根拠がないと分かっていながら表示したかどうかが、以前より重く扱われるようになっています。表示を出す前に資料を確認し、その記録を残しておくことの意味は、改正前より大きくなったと考えています。
まとめ
冒頭の「手元の試験データで、広告にどこまで書けるか」という疑問は、データの有無だけでは答えが出ません。そのデータが分野で認められた方法で得られたものか、そして広告の表現が、データで確認された対象・条件・指標・効果の大きさの範囲に収まっているか、の2点を確認して初めて判断できます。
効果が本当にある商品でも、それを示す資料が要件を満たしていなければ、不実証広告規制の下では不当表示とみなされることがあります。提出期限は原則15日で、新しい試験を行うことは延長の理由になりません。表示を出す時点で資料が揃い、第三者に説明できる形で保管されていることが前提になります。
言いたい表現から資料を探すより、文献と手元のデータで確認できている範囲を先に把握し、その範囲で表現を決めるほうが、表示と資料のずれは起きにくくなります。足りない部分があれば、そこを埋める試験を設計すればよいのです。
2024年の改正で、根拠がないと知りながら表示することへの扱いは厳しくなり、適格消費者団体から資料の開示を求められる可能性も出てきました。広告の表現を決める担当者とデータを持つ担当者が、同じ資料を見ながら「ここまでは書ける」を決めておくことが、いちばん確実な備えだと考えています。
自社商品の表現に、どこまでの根拠があるのか整理したい。手元の試験データが、広告で使いたい表現に対応しているか確認したい。試験を発注する前に、既存の研究で分かっていることを把握しておきたい。
eSTEM PLUSでは、こうしたご相談を承っています。必要に応じて専門家とも連携しながら進めますので、お気軽にお問い合わせください。
参考情報・参考文献
- 消費者庁「不実証広告規制」 制度の概要、合理的な根拠と認められる2つの要件 https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/representation_regulation/misleading_representation/not_demonstrated_ad
- 公正取引委員会「不当景品類及び不当表示防止法第7条第2項の運用指針―不実証広告規制に関する指針―」(平成15年10月28日、平成28年4月1日消費者庁一部改正) 資料提出を求める表示例、主観的・抽象的表示の扱い、2つの要件、試験方法・自社試験・体験談調査・専門家見解の条件、販売業者による確認書面、表示全体で判断すること、対応していない4つの例、提出期限(原則15日)と延長が認められない理由 https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/guideline/pdf/100121premiums_34.pdf
- 消費者庁「不当景品類及び不当表示防止法第8条(課徴金納付命令の基本的要件)に関する考え方」 課徴金納付命令との関係では「推定」となり、期限後も新しい資料で反論できること https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/guideline/assets/representation_cms216_240418_03.pdf
- 消費者庁「表示に関するQ&A」 第7条第2項と第8条第3項の違い(みなす/推定する) https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/faq/representation
- 消費者庁表示対策課「【令和6年10月1日施行】改正景品表示法の概要」 確約手続と対象外となる事案、直罰規定(100万円以下の罰金)、課徴金の1.5倍加算、適格消費者団体による開示要請 https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/movie_explanation/assets/representation_cms216_240917_02.pdf
- 不当景品類及び不当表示防止法(昭和37年法律第134号)/e-Gov法令検索 第7条第2項、第8条第3項、第35条、第48条の条文 https://laws.e-gov.go.jp/law/337AC0000000134
- エクスコムグローバル株式会社に対する景品表示法に基づく課徴金納付命令について/消費者庁「イモトのWiFi」における「お客様満足度 No.1」「海外旅行者が選ぶ No.1」「顧客対応満足度 No.1」等の表示と、その根拠となった調査方法に関する課徴金納付命令 https://www.caa.go.jp/notice/entry/045439/
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