食品の臨床試験を見積もる前に|文献調査・研究レビュー・臨床試験の違いと使い分け

食品の臨床試験を見積もる前に|文献調査・研究レビュー・臨床試験の違いと使い分け

食品やサプリメントの開発で「効果をきちんと示したい」となったとき、最初に思い浮かぶのは臨床試験だと思います。

臨床試験は費用が大きく、結果が論文として公表されるまでには長い期間がかかります。社内で進めるには、なぜその試験が必要で、その設計で何が言えるのかを稟議で説明しなければなりません。

私自身は、この段階でいきなり受託機関に見積もりを依頼するのは、少しもったいないと考えています。先に先行研究を調べておけば、そもそも試験が必要か、必要ならどう組み立てるか、結果をどんな表現に使えるかを、見積もりの前に検討できます。

この記事では、臨床試験の前に文献で確認できることと、文献だけでは判断できないことを、機能性表示食品の届出要件を例に整理していきます。

目次

根拠の作り方は大きく3つある

食品の機能について根拠を用意する方法は、大きく「文献調査」「研究レビュー」「最終製品を用いた臨床試験」に分けられます。名前は似ていますが、目的も成果物も異なるので本項でご紹介します。

文献調査

文献調査は、ある成分や機能についてどのくらい研究があるかをつかむための下調べです。論文データベースを検索し、研究の数、研究デザイン、対象者、結果の傾向を確認します。

短期間で全体像が分かるので、開発の方向性を決める段階に向いています。ただし探し方や選び方のルールを事前に固定しないため、網羅性や再現性には限りがあります。

文献調査の結果は社内の判断材料として使い、表示や広告の根拠そのものにはしないほうが安全です。

研究レビュー(システマティックレビュー)

研究レビューは、あらかじめ決めた方法で文献を網羅的に集め、結果を総合的に評価する方法です。機能性表示食品では、機能性の根拠として認められている2つの方法のうちの1つにあたります。

届出では、検索したデータベースと検索式、採用・除外した文献、各論文の質の評価まで、手順を開示します。届出様式はPRISMA 2020の報告項目に沿った記載を求めており、英語論文だけでなく、国内のデータベースを使った日本語論文の検索も必要です。

最終製品を用いた臨床試験

自社の製品そのものを人に摂取してもらい、効果を確かめる方法です。機能性表示食品のもう1つの根拠の作り方にあたります。

試験方法は、原則として特定保健用食品(トクホ)の試験方法に準拠します。試験食とプラセボ食を比べる二重盲検比較試験で、参加者は無作為に割り付けるのが原則です。

二重盲検比較試験(ダブル・ブラインド・テスト)
被験者と評価者の双方が、試験品とプラセボあるいは既存品のどちらが投与されているかを知らない状態で行う臨床試験

あわせて、倫理審査委員会の承認、臨床試験公開データベースへの研究計画の事前登録、査読付き論文での公表も求められます。

費用・期間・言える範囲を比べる

3つの方法は、どれが上位というものではなく、使う目的が違います。費用や期間、結果から言える範囲もそれぞれ異なります。

文献調査研究レビュー最終製品を用いた臨床試験
目的研究の有無と傾向をつかむ表示・広告の根拠をつくる自社製品での効果を確かめる
費用3つの中で最も小さい中程度。対象文献の数や評価の深さで変わる最も大きい。被験者数・期間・検査項目で大きく変わる
期間短い中程度最も長い
対象成分・素材成分または最終製品(成分の場合は製品との同等性の説明が必要)最終製品そのもの
言える範囲単独では根拠にしない(社内の判断材料)研究レビューの対象(成分または最終製品)についての機能製品についての機能
主なリスク網羅性・再現性に限りがある研究が少ない、質が低い、否定的な結果が多いと成立しない期待した結果が出ないことがある

費用はいずれも規模で大きく変わります。とくに臨床試験は、被験者の人数、摂取期間、測定項目の数によって、見積もりが何倍にも変わります。

期間の差は、手順の多さから来ています。トクホの申請書作成上の留意事項では、効果を確かめる試験の摂取期間は一般に12週間程度以上が必要とされ、12週間以上とした場合は4週間以上の後観察期間も設けます。整腸のように、短期間で効果を確認できる用途は例外です。

機能性表示食品の臨床試験はこの試験方法に準拠しますが、後観察期間は省略できるとされています。どちらの場合も、ここに倫理審査、事前登録、被験者の募集、解析、論文の投稿と査読が加わります。

実際の届出では、研究レビューが大半を占めています。制度が始まった2015年4月から2023年1月1日までの届出6,606件のうち、研究レビューは6,297件(95.3%)、臨床試験は309件(4.7%)でした。

これには、同じ素材が多くの製品で使われているという事情もあります。たとえば消費者庁の機能性表示食品データベースで「GABA」と検索すると、膨大な数の届出が出てきます。

GABAほど研究が蓄積した素材なら、新たに試験をする必要はなさそうです。開発者は十分なデータを使えるので楽に開発を進めることができます。そうすると多く採用されている素材の開発量がどんどん増えてきますね。

私自身、短納期案件ほどこのような素材に頼ることが多かったので、届け出で研究レビューが大半を占めているのは開発上の事情も大きそうです。

先行研究を見ると、試験が要るかどうかが分かる

同じ成分・同じ機能の研究が十分にあれば、研究レビューで根拠を組み立てられる可能性があります。

たとえば、ある植物エキスについて「日常的な疲労感をやわらげる」という訴求を考えているとします。健康な人を対象にしたプラセボ対照の試験が複数見つかれば、研究レビューで根拠を組み立てられる見込みは高くなります。

反対に、動物実験しか見つからない、疾病のある人を対象にした研究ばかり、という場合もあります。機能性表示食品の根拠は原則として疾病に罹患していない人のデータに限られるので、この時点で研究レビューは難しいと分かります。

研究の数がそろっていても、自社製品に当てはめられるかは別に確認が必要です。成分についての研究レビューで届け出る場合、研究で使われた成分と自社製品の成分が同等であることを説明しなければなりません。

消費者庁の手引きは、消化されやすい食品で得られた知見を消化されにくい食品に当てはめることや、似た働きの成分を複数配合した食品の知見を単独配合の食品に当てはめることを、不適当な例として挙げています。配合、摂取量、形状、基原や抽出方法が先行研究と大きく違えば、同等性の説明は難しくなります。

研究の結果の向きも見ておきます。研究レビューは、肯定的な結果も否定的な結果も含めて検討し、全体として肯定的と判断できる場合に限って根拠にできます。肯定的な論文が否定的な論文より少ない場合は、その差を覆す評価をした合理的な理由を説明しなければなりません。

研究の質にも注意が必要です。機能性表示食品の現状を整理した上岡(2023)の総説では、届出された研究レビューについて、評価ツール(AMSTARとAMSTAR 2)で質が非常に低い水準と判定された報告があることが示されています。届出件数の多い素材でも、根拠が強いとは限りません。

新しい素材で研究がほとんどない場合は、最終製品を用いた臨床試験が第一の選択肢になります。企業が独自に開発した素材は、まさにこのケースです。それでも、類似成分や作用の仕組みに関する研究は、試験の設計を考える材料として使えます。

試験をするなら、先行研究が設計の材料になる

臨床試験を行う場合も、先行研究の調査は欠かせません。臨床試験の計画書に関する国際的な指針であるSPIRIT 2025は、関連研究の要約を含む科学的背景と、サンプルサイズ計算の前提をすべて計画書に書くよう求めています。

先行研究からは、計画書を書くための次のような情報が得られます。

  • どの評価項目で差が出ているか
  • どのくらいの摂取量・摂取期間で効果が見られたか
  • どのような対象者で試験されているか
  • 効果の大きさはどの程度か(必要な被験者数の見積もりに使う)

論文でいえばMaterials & Methodsにあたる情報を、自社の試験を組む前に集められます。これが分からないまま試験を組むと、評価項目や人数を手探りで決めることになります。

先行研究が十分に参照されていない問題は、食品に限った話ではありません。1,523件のランダム化比較試験を調べた研究では、引用できたはずの先行試験のうち、実際に引用されていたのは4分の1未満でした。先行試験がいくつあっても、引用数の中央値は2件にとどまっていました。

計画書で決めたことは、あとから変えられない

臨床試験は、始めてから計画を変える余地がほとんどありません。トクホの留意事項では、効果の判定に使う評価指標をあらかじめ決めて試験計画書に書き、計画書にない追加の検証を加えた解析は行わないこととされています。

機能性表示食品の場合は、主要評価項目、試験デザイン、対象者の条件などを事前登録の時点で登録します。正規の手続きを踏まずに登録後に実質的な変更をした研究は、機能性の根拠として使えません。結果を見てから「この表現にも使いたい」と思っても、評価項目を後から足すことはできないということです。

被験者数も同じです。計画書には人数を決めた根拠を書く必要があり、効果は試験食群とプラセボ群の有意差で判定します。効果の大きさの見込みがないまま人数を決めると、本当は効果があっても統計的な差として示せないことがあります。

差が出なければ、その試験は届出の根拠に使えません。摂取期間や倫理審査にかけた費用と時間を考えると、別の条件でやり直すのは現実的に難しい場合が多いと思います。

対象者の条件にも制約があります。機能性表示食品の臨床試験は、原則として疾病に罹患していない人から参加者を選びます。軽症者を含むデータは、トクホの試験方法で認められた範囲など限られた場合に、例外的に使えるだけです。先行研究の対象者を見ておくと、募集条件をどう設定すればよいかの目安になります。

言える表現の範囲も、先に見当がつく

表示や広告で言えるのは、根拠で実証された内容の範囲までです。先行研究で使われた評価指標を見ておくと、どこまでの表現なら検討できるかを試験の前に考えられます。

消費者庁の「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」は、措置命令の事例で合理的な根拠と認められなかった理由として、次のような例を挙げています。

  • 成分に関する研究論文が提出されたが、その商品の効果を実証するものではなかった
  • 論文での被験者の成分摂取量と、商品に含まれる量が大きく違っていた
  • 動物実験のデータで、人への有効性を実証するものではなかった

評価指標の種類も、使える表現に影響します。疲労感のように本人の感じ方で測る指標(主観的な指標)だけで機能性を示す場合、その指標は日本人を対象とした検証で妥当性が確認され、学会などで広く認められたものである必要があります。

先ほどの植物エキスの例なら、先行研究がどの質問票で疲労感を測っているかまで確認しておくと、表現を考える段階で迷いが減ります。

アンケートを根拠にする場合も、何を尋ねた調査かを確認します。同じ留意事項は、満足度を尋ねたアンケートの結果を「○%の人が効果を実感した」と表示する例を、問題となるおそれがある表示として挙げています。

見積もりを取る前に進める順番

臨床試験を検討しているなら、受託機関に見積もりを依頼する前に、次の順番で整理しておくと判断しやすくなります。

  1. 訴求したい機能を1〜2個に絞る。候補が多いと、調べる範囲も試験の評価項目も広がりすぎます。別の機能は後から改めて検討することもできるので、最初は絞っておくのがおすすめです。
  2. 文献調査で、研究の量と質をつかむ。研究の数だけでなく、対象者、摂取量、評価項目、研究デザインを確認します。
  3. 研究レビューで足りるか、臨床試験が必要かを判断する。研究で使われた成分と自社製品の同等性を説明できるかも、この段階で確認します。
  4. 臨床試験をする場合は、先行研究をもとに設計の要件を整理してから受託機関に相談する。評価項目、摂取量、対象者、効果の大きさの見込みを手元に持っておけば、複数の受託機関に同じ条件で見積もりを依頼できます。
  5. 結果に合わせて、表示・広告の表現を決める。表現は、根拠で実証された範囲に合わせます。

文献の確認は、届出をしたら終わりではありません。機能性表示食品では、機能性について新たな知見が得られたら遅滞なく消費者庁に報告することが届出後の遵守事項になっており、年に1回の自己点検と報告も求められます。新たな知見によって科学的根拠が不十分になったときは、届出を撤回します。

そもそも機能性表示食品として届け出るかどうかを検討している段階なら、機能性表示食品をやめるというのも一つの選択肢と考えています。今これを提唱している事業者さんはかなり少ないですが、これからの時代はあえて機能性を外すという選択肢が増えてくると考えています。併せてご確認ください。

まとめ

臨床試験の稟議で問われるのは、見積もり金額そのものより「この試験で何を確かめ、結果を何に使うのか」です。先行研究を調べておけば、試験が不要なケースに早く気づけますし、必要な場合も評価項目、対象者、被験者数を根拠を持って決められます。

ただし、文献だけで自社製品について言えることには限りがあります。製品の配合や形状が先行研究と大きく違う場合や、研究が少ない、質が低い、否定的な結果が多いといった場合は、臨床試験を検討することになります。

その場合でも、先に文献を見ておけば、試験の設計と結果の使い道を最初から決めたうえで見積もりに進めます。臨床試験の前に文献を見る作業は、試験を省くためというより、試験を無駄にしないための準備だと私は考えています。


臨床試験を検討しているが、その前に既存の研究で何が言えるかを確認したい。研究レビューで届け出られるのか、試験が必要なのか、判断材料がほしい。

eSTEM PLUSでは、成分・機能に関する先行研究の調査と、試験設計や表示表現の検討に使える形での整理について、ご相談を承っています。お気軽にお問い合わせください。

参考文献

  1. 消費者庁「機能性表示食品の届出等に関する手引き」(令和7年3月25日制定、令和7年10月1日一部改正) PDF 研究レビューと最終製品を用いた臨床試験の要件(トクホ試験方法への準拠と後観察期間の省略、事前登録と登録後の変更の扱い、査読付き論文での公表、対象者と軽症者データの例外、肯定的・否定的研究を含めた総合判断、日本語論文の検索、成分と最終製品の同等性と不適当な外挿の例、PRISMA 2020の記載項目、主観的指標の要件、届出後の報告・自己点検・撤回)
  2. 消費者庁「特定保健用食品申請に係る申請書作成上の留意事項」(「特定保健用食品の表示許可等について」別添2、令和7年4月23日改正) PDF 二重盲検・無作為割付、摂取期間(一般に12週間程度以上)と後観察期間、評価指標の事前設定と計画外の追加解析を行わないこと、被験者数の設定根拠、有意差による判定
  3. 消費者庁「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」(令和4年12月5日一部改定) PDF 合理的な根拠と認められなかった例(成分論文、摂取量の乖離、動物実験)、アンケート結果の不適切な使用例
  4. 上岡洋晴「機能性表示食品制度の現状と課題—機能性のエビデンス」薬学雑誌 143(11): 931-940, 2023. doi:10.1248/yakushi.23-00121 届出件数の内訳(6,606件中、研究レビュー6,297件・臨床試験309件)、届出された研究レビューの質の評価
  5. Chan AW, et al. SPIRIT 2025 statement: updated guideline for protocols of randomised trials. Nat Med. 2025;31:1784-1792.(BMJ、JAMA、Lancet、PLoS Medicineにも同時掲載) 計画書に関連研究の要約を含む科学的背景とサンプルサイズ計算の前提を書くこと【要確認:DOIと掲載ページ】
  6. Robinson KA, Goodman SN. A systematic examination of the citation of prior research in reports of randomized, controlled trials. Ann Intern Med. 2011;154(1):50-55. doi:10.7326/0003-4819-154-1-201101040-00007 1,523件のランダム化比較試験における先行試験の引用状況(4分の1未満、中央値2件)
  7. 消費者庁「機能性表示食品の届出情報検索」 データベース GABAの届出件数の例

文献調査を進めたい

サービスに関するご相談は、こちらよりお問い合わせください。

参考になったらシェアをお願いします
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次